Diamonds/Satomi Kawakami
「ダイヤモンド/川上さとみ」
本物だけが放つ輝き。
心の奥底まで届き揺さぶる光のようなジャズ。
エレガントかつ熱情に溢れる川上さとみのピアノだけが持つ世界。
川上さとみ :piano 池田潔:bass 田鹿雅裕:drums
ライナーノーツより抜粋
エレガントな熱情、それが川上さとみの身上である。
優雅なルックスに拘わらず、川上さとみは内側にとても強いものを持っており、
それが本作でもよく見て取れる。
ここでは、デビュー作「ティアラ」以来の「スウィートネス」、「イノセント・アイズ」といった秀作、話題作に連なる、
いつもながらの川上さとみの世界が、よりパッシブに開陳されており、その勢いの強さに驚かされる。
エレガントな熱情、と評したのは、そのためである。
それでいて、いつもの、こよなく美しいタッチは健在なのだ。安心されたい。
クラシックの素養を土台にした、エレガントでまことに美しいタッチと、
バップの洗礼を色濃く受けた、激しく熱っぽいスタイルが、川上さとみの世界を形作っている。
このように、優雅でありながら力強い、というのは、まことに得がたい個性であり、作法だ。
それを本作「ダイヤモンド」では、より確かに押し出し、川上さとみワールドを形成する。
これまでのアルバム同様、オリジナルをメインにスタンダードをいくつかあしらう、という構成だが、
今回も、この行き方がひじょうに巧くいっているのを知る。
・・・・・強靭で堅牢な構成のオリジナルと、たおやかで心なごむスタンダードの配分が、ちょうどいいのである。
こういうピアニストは、実はなかなかいないのだ。
それは、ここが大事だが、彼女のこさえるオリジナルの多くが実にメロディアスで、こなれており、
これってスタンダードだっけ、と思わせてしまうからだ。
それが、彼女ならではの端麗なタッチで紡ぎだされるのだから、ジャズ・ファンは堪らない。
こういうピアニストは、なかなかいないと書くのは、その理由による。
(馬場啓一)
「ロイヤル・ロード」
・・・強いイントロに続くバップ・イディオムの曲想は、いつもながらの川上さとみの世界であり、
慈しむように奏でられるフレーズは、ストレートに、聴く者の心に飛び込んでくる。
男性的、とも言うべきピアノのタッチが、実は大変に美しい音色を有しているところを味わうべきである。
「ロータス・ブロッサム」
ケニー・ドーハム畢生の名曲であり、ジャズ・ファンにはお馴染みのメロディだ。
それがここではミディアムの、流れるようなテンポで演奏され、あれよ、あれよ、という間に、彼女の世界に引き込まれていく。・・・・・
「キャンドル」
まさにローソクの、ほのかなゆらめきを思わせる、エレガントな美曲である。
並ぶ者のいない、その美しいタッチが、存分に味わえる。
それでいて、ジャズの持つスポンテイニアスな世界がここにはあって、寛ぎと、なごみを味あわせてくれる。・・・・・
「フィンガー・トーク」
なにしろ抜群のテクニックを誇る川上さとみだから、イントロの短いパッセージだけで、その後の展開に期待を抱かせてしまう。
そしてそれは決して裏切られることは無いのだ。高音域で繰り広げられる文字通りフィンガー・トークは、
彼女のデリカシーと、それに相反するタフなジャズのスピリット、を示す。このまま、いつまでも、聴いていたくなる。・・・・・
「ブルー・スリム」
川上さとみは不思議な選曲をすることがある。
埋もれたジャズ・オリジナルを引っ張り出し、自分のものにして聴く者を感心させるのだ。
これもその好例で、ジミー・ヒースの手堅いオリジナルを、まことに見事に料理している。
・・・・・・・・・・・
「ブラッシング・ザ・スターズ」
音の粒立ちが良く、優雅で洗練された川上さとみのピアノ・タッチ。
それは、こういう軽いメロディに相応しい。肩の力は抜けているが、決して気は抜いていない。
それが彼女の作法だ。聴く者をリラックスさせながら、安きに流れることはない。
これこそピアニスト川上さとみの、他に絶対見られぬ特質である。
だから、聴いていて飽きない。適度の緊張が、いつも、そのエレガントな世界に付帯する。
そのため、決して新鮮さを失わないのだ。・・・・・
「イン・ソリチュード」
孤独の中で、独りピアノに向かうエレガントなピアニスト。
そのシングル・トーンが闇夜に漂い、・・・・・聴く者を深遠な世界に誘う。
ピアノだけで、弾く人間の性別から、優美なそのたたずまいまで、全てを想像させてしまうのだ。これが川上さとみである。
大変な才能、と言わねばなるまい。ラストの、深い闇に消えていくような幽玄な余韻を、聴き逃さぬように。
「フォルシティ」
そして最後が「フォルシティ(うそ)」である。本作で最もしっとりした情緒を感じる曲。・・・・・
それが「うそ」もしくは「いつわり」と題されているのは、なかなか示唆に富んでいる。・・・・・
川上さとみのオリジナルならではの、こなれた、メロディアスな、どこか耳慣れた歌の世界が、深い余韻となって本作を締めくくる。
(馬場啓一)
ライナーノーツより抜粋