Orchid /Satomi Kawakami

「オーキッド/川上さとみ」

“崇高なる魂の表出、その結晶” 

右手の激痛・・・苦悩の日々から生まれた作品は、これまでとは異なる強い思いが込められた。

川上さとみ :piano 小杉 敏 :bass 田鹿雅裕 :drums 

 


ハンク・ジョーンズがその実力と音色を絶賛し、女流ピアニストとしてビバップNo.1の呼び声が高い川上さとみ、1年半ぶりの新録音。

1年前に突然難病の反射性交感神経性ジストロフィーを右手に発症し、激痛と闘いながらそれを克服した渾身のアルバム。

ピアノの音をより際立たせるため、ドラマーは全てブラシで演奏したこだわりのサウンド・アンサンブル。

スタンダードと錯覚するほど完成されたオリジナル曲を中心に、「グリーン・ドルフィン・ストリート」、「キャラバン」も

これまでにない特徴あるアレンジを施し色彩を光っている。

 

 

ライナーノーツより抜粋



磨き上げられた技巧が生み出す美しいピアノの響き、

加えて豊かな歌心でのびのびとスウィングする日本ジャズ界の逸材、

川上さとみの最新作「オーキッド」が完成した。

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ピアノの響きがより鮮明になり、

アルバム全体に格調と気品がもたらされたことは特筆すべきことだ。

この第5作にいたって、

トリオは一段と深化を遂げ、飛躍したということを強調しておきたい。

 

 ・・・・・各曲について演奏を聴いた印象を書き添えておきたい。

<ブルー・バイオレット>は一音一音を大切に澄んだ響きでピアノが旋律を奏でる。ブルー・バイオレットは花言葉では“忠実、愛”。

<ソウル>は一転してファンキーな曲調でスウィングする。

川上はオクターヴ奏法を聴かせるかと思うと左右の手が独立したパッセージを展開するなど鍵盤上で躍動する。

ドラムスとの対話、ベースとのインタープレイも聴かれる。

イージー・テンポの<レゾリューション>では大胆なブレイク(休止)が演奏にドラマをもたらしている。

エリントン・ナンバーの<キャラバン>は意表を突く序奏からよく知られた主題も即興的に展開される。

ピアノにサンドイッチされるブラシによるドラムスのソロは田鹿の真骨頂を示すもの。

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トリオがナチュラルにスウィングする<シークレット・プレイス>は

三者が互角に主張し合いながらユニットとしても機能するという命題に挑んで見事な成果を挙げている。

<ゴールデン・ルール>はスピードを伴った演奏で、アルバム中、ジャズの醍醐味を最も強く感じさせるハイライト。

川上の技巧的なピアノ・プレイ、小杉の豪放なウォーキング・ベース・ソロ、

ピアノとドラムスによる掛け合いなど、聴きどころが満載だ。

2曲目のスタンダード<オン・グリーン・ドルフィン・ストリート>は

ここでもまた斬新な序奏からソロのリレーが続いて、終わったときは客席から拍手が湧いてきそうな錯覚に誘われる。

まるでライヴを聴いているかのような演奏だ。

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明かすべきか、伏せておくべきか、迷いに迷った結果、

やはり、記すべきではないかという思いに至って、

アルバム完成にまでに起こった川上さとみを襲った“病い”について触れておかねばならない。

このことをはじめに知らされたのはプロデューサーからで、

「実は1年ほど前に(川上さとみは)反射性交感神経性ジストロフィーという複雑な病気を右手に発症し、

・・・・・アルバムを録音した時もそうでしたが、今も痛みと闘いながら生活をしています。

幸い良い医師のおかげで演奏することにそれほど支障はないようですが、握手などはできないようです。・・・」というものだった。

 そこで、川上さとみに「何が起こったのか」直接聞いてみた。

以下は・・・ご本人からの回答である。

 「これまで全く経験したことのない原因不明のこの病

( RSD反射性交感神経性ジストロフィー CRPS typeⅠ)の状態の中で考えてきたのは、

『苦しい状況の中でも自分自身を見失わず、威厳をもって自分の個性の再確認をしていこう、

そしてそれが芸術作品のひとつとして感じてもらえたらとても嬉しい』

ということです。

またレコーディング時に改めて再確認したことがあります。

どういう状況であろうと、

いつも演奏時は、『深い集中のなかに贅沢な楽しみを感じている自分がいる』

ということです。これがはっきりとしました。」

「今も続く日頃の努力としては、この病に悪いとされるストレスを少しでもどう無くすかということです。

この病の特徴のひとつともされている、痛みと拘縮(こうしゅく)。

これらにより安定を欠く精神状態。これといかに戦うかということになります。

自分自身では更に食、生活環境を整える努力をしています。

幸いステージや今回のレコーディング、他のレコーディング等でも、

鍵盤に触れる直前に、無心になり、完全に集中する自分がいます。痛みさえ消えます。」

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この新作は、これまで書いてきた“川上さとみの第5作”という型どおりの位置づけから、

“崇高なる魂の表出、その結晶”という認識に変わった。

                       

児山紀芳 (Kiyoshi Koyama)