Tiara/Satomi Kawakami

「ティアラ/川上さとみ」

凛として しなやかに

鋭敏な感受性で音を選び、ピアノを最も美しく鳴らす。

川上さとみ :piano 安ヵ川大樹 :bass 原 大力 :drums


 

ライナーノーツより抜粋

 

数フレーズを聴いたとたん、ぼくは思わず坐り直してしまった。

そのいのちの通った強靱なピアノの音に圧倒されたのだ。

これはただ者ではないとおもった。 ピアノが本当に鳴っているとはこのことをいうのだろう。

 

ピアノという楽器を知り儘していて、ピアノの機能をフルに生かして、

自分の気持や感情、スピリットを余すところなく表現しているのである。

ピアノに彼女が乗り移り、ピアノがまるで肉体と生命をもって迫ってくるのである。

 

タッチの強弱のつけ方が見事だし、鍵盤が目一杯鳴っているし、力強さと繊細さのコントラストがあざやかだ。

日本のジャズ・ピアニストで、これほどきちんとピアノを鳴りひびかせている人はそんなにいないだろう。

ピアノが余すところなく鳴っているからとても気持がいいのだ。

このピアノを快適なサウンドで鳴らす技術には驚嘆してしまう。

しかも、けっしてメカニックに鳴らしているのではなく、

音にも表現にも、彼女の感情や肉声がこめられているので、心を打たれるのである。

彼女の人間性の表現になっているから、共感を覚えるのである。

 


 チャーリー・パーカーは「ジャズは人間の生き方そのものである」といった。

「音楽とはきみ自身の経験であり、思想であり、知恵なのだ。

もし、まことの生活を送らなければ、きみの楽器は真実のひびきをもたないであろう」とパーカーはいっている。

川上さとみの自分の情感や人間性と一体化したオリジナル曲の演奏を聴いていると、パーカーの言葉が思い出された。

 

オリジナルなメロディ・メイカーとしての才能は天才的と思えるほどだ。

彼女の作品やピアノ演奏は、彼女の人間性の反映そのものなのだ。

 

川上さとみは今回の「ティアラ」でいきなりメジャー・デビューだが、

この一作で、日本のジャズ・ピアニストのトップ・グループ入りを果たしたとぼくは確信する。

彼女のピアノの鳴りの凄さを是非とも聴きとってほしいものだ。

ジャズでもクラシックでも、本物のピアノを聴いてきた人なら、その判断はできるはずだ。

 

作曲の才能は天賦のものと思わざるを得ないほどだ。
 

彼女はピアノによって幻想的で美しい未知の世界へといざなってくれるのである。

 

(岩浪洋三)